2019-04-24

【マレーシア法務ブログ】第4回:雇用関連の法規制④

TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の下田です。今回は労務にかかわる問題の中でも特に紛争に発展しやすい解雇について解説していきます。 

 

1. はじめに

解雇には、大きく分けて①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇の3つの類型があります。雇用法(Employment Act 1955)(原則として、月額賃金RM2,000以下の労働者や肉体労働者等に適用される)が適用されるかどうかに関わりなく、いずれの類型においても、解雇が有効となるためには正当事由が必要となります。
また、正当事由の証明責任は使用者側にあるとされているため、解雇にあたっては解雇の根拠となる事実及び解雇に至るまでの手続について記録を残しておくことが大切です。

 

2. 解雇の類型について

1 普通解雇
(1) 性質

労働者が雇用契約に基づく労務の提供をしない(又は、できない)場合に雇用契約を解消するものです。懲戒解雇・整理解雇以外の解雇と表現することもあります。
 
(2) 手続
雇用契約で定める予告期間に従って、事前通知の形で解雇を通知します。雇用法が適用される労働者については、契約において予告期間の定めがない場合や、事業の廃止等の一定の事由がある場合、雇用法が定める予告期間を下回ることができません(勤続2年未満の場合4週間、勤続2年以上5年未満の場合6週間、勤続5年以上の場合8週間)。ただし、対応する期間の賃金の支払いをすることで、予告期間を短縮することはできます。
また、雇用法が適用される労働者については、法定の解雇手当を支払う必要があります(勤続1年以上2年未満の場合1年につき10日分、勤続2年以上5年未満の場合1年につき15日分、勤続5年以上の場合1年につき20日分)。
 
(3) 解雇理由の例
ア 能力不足

能力不足を解雇の正当事由とするためには、通常、使用者が労働者に対し改善の機会を与えたことが必要になります。
具体的には、①警告書(労働者の業務の不良、改善が認められない場合には解雇されること、改善のための必要期間等)の発行、②改善のための期間の付与(場合により指導)を経た上で、③それでもなお業務が改善されないといった過程が必要となります。①②を何回程度繰り返さなければならないかは、事案により異なります。
 
イ 長期間の就労不能
労働者が私生活上の怪我や病気により長期間就労できなくなった場合、使用者は解雇により雇用契約を終了させることが考えられます。
もっとも、労働者の怪我の状態を十分把握せずに就労不能と判断し解雇を通告した結果、解雇に正当事由がないと判断されてしまった裁判例もあるため、本当に就労ができないかどうかは慎重に検討をする必要があります。

 
2 懲戒解雇
(1) 性質

懲戒解雇は、懲戒処分(多義的な言葉ですが、通常は企業秩序を乱した労働者への制裁としての不利益処分を意味します)の1つとして行われる解雇です。
 
(2) 手続
雇用法14条は、不正行為があった場合には適正な調査を行ったうえで労働者を予告なく解雇することができるとしています(解雇予告手当の支払いも不要としています)。実務上は、雇用法の適用の有無に拘らず不正行為があった(と使用者が考える)場合には、不正行為の有無を調査のうえ、当該労働者に問題となっている不正行為を通知するとともに理由呈示命令書による弁明の機会を付与し、社内審問手続(「Domestic Inquiry」)を経た上で解雇をするという流れが一般的です。
対象となる労働者の出勤が調査や業務に支障をきたす場合には懲戒処分の決定まで停職処分を行うことも可能ですが、雇用法は無給での停職処分は2週間を超えてはならないとしています。
 
(3) 解雇理由の例
不正行為には、窃盗・詐欺等の犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシャルハラスメント等が含まれます。軽度の不正行為の場合には、解雇に至るまでに使用者が反復・継続的に対応をしたにも拘らず改善がなされなかったことが必要となります。
懲戒解雇を正当化できるだけの重さの不正行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったこと等を理由として不正行為に対する使用者からの宥恕があったと認定し、その不正行為を解雇の正当事由と認めなかった裁判例や社内調査手続が適切に行われなかったことを理由として解雇を無効とした裁判例もあるため、不正行為に対する対応は適切な時期に適切な手続に沿って行われなければなりません。

 
3 整理解雇
(1) 性質

人員が余剰であることを理由として行われる解雇です。
 
(2) 手続
整理解雇については、労使協調行為規則(The Code of Conduct for Industrial Harmony 1975)というガイドラインが用意されており、実務上はこの規則に沿って手続を進める必要があります。
同規則は、労働者の余剰が生じた場合、使用者は労働者の代表者及び政府と協議のうえ、解雇を回避するための措置(新規雇用の停止、残業・休日出勤の制限、配置転換等)をとる必要があるとしています。また、そのような解雇回避措置をとったにもかかわらず解雇が必要になった場合には、早期の通知、早期退職制度の導入、求職活動の支援といった措置をとるべきことを定めています。
同規則は整理解雇の対象となる従業員を選択する際には合理的な基準に基づかなければならないと規定し、事業運営上の必要性及び個々の労働者の能力のほか、労働者の身分(マレーシア人か否かや雇用形態)、年齢、家族構成等を考慮要素として掲げています。
この合理的な基準には、外国人から解雇の対象にすべきという「Foreign Workers First Outの原則」のほか、直近に雇用された者から順に解雇の対象とすべきという「Last In First Out 原則」等が含まれるものと考えられています 。

 

3. みなし解雇(Constructive Dismissal)

みなし解雇とは、使用者が雇用契約に反して行った労働条件の変更等を受けて労働者がやむを得ず自ら退職することになった場合に、その労働条件の変更から退職までの流れが実質的には解雇にほかならないとして、解雇の問題として裁判所に申立をするという制度です。これはイギリスの判例法上認められていた制度で、マレーシアの最高裁判所もこの制度を承認しています。
具体的には、①使用者による雇用契約違反があること、②その違反が労働者の退職を正当化するだけの重要性を有すること、③労働者がその違反を理由として退職をしていること、④労働者の退職が時機に遅れたものではないことが必要とされています。

 

4. 解雇の有効性を争う手続

1 手続の概略
雇用法が適用されるかどうかに関わりなく、労働者は解雇に正当な事由がないことを理由として、解雇から60日以内に労使関係局長に復職を求める旨の申立てをすることができます。
申立後、労使関係局の下であっせん手続が実施され話し合いを中心とした解決が試みられますが、あっせんによる解決の見込みがないと判断された場合には、労使関係局長は人的資源省大臣に報告をし、報告を受けた人的資源省大臣はその事件を労使関係裁判所(「Industrial Court」)に付託します。
 
2 解雇の無効が認められた場合
労使関係裁判所での審理を経て解雇が無効と判断された場合、判決により、①解雇から判決までの賃金(24か月分が上限とされています)及び②ⅰ復職又はⅱ復職に代わる補償金の支払いが命じられます(ⅰかⅱかは裁判所が事案に応じて選択します。)。
復職に代わる補償金は「勤続年数×1か月分の賃金額」が相場とされていますが、従業員側の帰責性等を考慮して減額される場合もあります。

 
 
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ライター

下田幸輝

下田幸輝

マレーシア弁護士と共に、会社設立手続き、各種ライセンス取得手続き、雇用契約書や就業規則の作成等の労務関連、売買契約書等の各種契約書の作成、法規制の調査、意見書の作成、DD等のM&A関連、訴訟・紛争案件、不動産譲渡手続き、商標登録等の知的財産権関連等、幅広い法務関連サービスを提供している。多くの日系企業と顧問契約を締結している。 また、ヤンゴン(SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.)、バンコク(TNY Legal Co., Ltd)、大阪・東京(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、テルアビブ(TNY Consulting (Israel) CO., LTD.)にも関連事務所を有する。

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