2019-03-25

【連載⑨】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

今回はこれまで見てきた就業規則の中でも、次回も合わせてタイならではの内容が入ってくるパートになります。日本ではなかなか見られないものも多いため、その具体的な背景とともに事例を踏まえてご案内します。目次構成上も後半に入り、第6章だけに集中して取り上げます。

 

 

目次
第6章 休日及び休暇取得規定
6.1 所用休暇
6.2 傷病休暇
6.3 出産休暇
6.4 兵役休暇
6.5 不妊処置休暇
6.6 研修及び能力開発のための休暇

 
目次の項目からしてこの第6章の休日及び休暇取得規定の中には、兵役休暇なるものなどお国柄が反映されたものになっています。更に言うと、実は最初の項目である所用休暇の中にもかなり独特のものが反映されていたりもします。
それでは早速いつものように順を追って見ていきましょう。

と、本題に入る前に、まずは各種休暇の定義として、会社として休暇を認める場合の手順について記載することが重要ですので、こちらに触れておきましょう。

 

タイでの休暇申請・承認の手順

特にたくさんの休暇の種類があるこのタイ国では、法定上守られているものは有給休暇になりやすく、欠勤扱いにもしづらいところなので、雇用側としてもどういった場合にその休暇として会社としても認識するか、ということがポイントになります。そのため、通常は本人が書面等により事前申請し、その取得理由を具体的に記載した上で、上長の承認を取ることを義務付ける記載を冒頭に入れたほうが良いでしょう。最も、急な病気などによる場合は例外とし、その場合は復職後ただちに遡及して申請書を提出するという形式的なことを定めたりもします。提出しない場合は、欠勤扱いや場合によっては罰則の対象となりえることも記載しておくことが多いです。雇用者側からするとここが肝で、後日問題があった場合に勤務態度不良による根拠にもなり得るからです。

 

タイの有給休暇は付与は初年度から、但し管理方法に注意

それでは各項目に入っていきましょう。それなりに盛り込んであるのがこの所用休暇です。当社の就業規則の中には、次のようなものが入っています。

 
・有給休暇
・結婚のための所用休暇
・葬儀執行のための休暇
・出家及び宗教儀礼参加のための休暇

 
まず有給休暇ですが、被雇用者には優しい労働法ですが、なぜか有給休暇については法律上1年勤務した後でようやく3日が与えられるというのが最低基準になっており、やや厳しめです。法律に合わせるということでそのまま適用しても良いのですが、雇用者側としては同業他社の動向なども、売り手市場の労働市場では気にしないといけないところです。実際には初年度から3~6日くらいは支給してあげるところが一般的です。当社では6日も出しています。但し、以前触れたように試用期間を設けているので、その間は支給されないことと、上述のとおり申請と承認は絶対ルールなので、むやみやたらに取れるものではないという雰囲気を醸成することが重要です。被雇用者の方からすれば、どのような有給休暇の管理をしているかを聞ければ、その会社の管理方針などある程度分かるところでもあります。

 

タイの慶弔休暇と不正な取得事例

次に、結婚のための所用休暇と葬儀執行のための休暇ですが、これはいわゆる慶弔休暇といったものです。日本人としては少し気になるのが慶弔金ですが、これは入れても入れなくても良いです。入れるとしても別の章で入れたほうが良いでしょう。たまに葬儀の時にどのくらい会社として包むのかという質問もいただきますが、それほど経験の多い人もそうそういないので、周りのスタッフやタイ経験がずっと長い人などに聞くのが良いでしょう。
 
これらの慶弔休暇日数ですが、どちらも当社の場合は5日に設定しています。但し、葬儀のときは直系親族か義父母・養子までとしています。今ではそうそうないと思いますが、たまに聞くのが都合が悪いと家族が亡くなるという事例です。特にローカルスタッフが辞めるときの理由として、なぜか一度きりの人生で親が複数回亡くなったり、看病で帰省するなどを理由として辞めることもあります。それを気にしだしたら切りもないのですが、辞めてすぐに街で元気な姿で親子で闊歩していたという目撃情報もあったりするので、会社にとっては笑えない話です。

 

功徳を積むタイ人男性?出家関係の休暇事情

続いては出家関係の休暇です。これこそタイならではでしょう。タイはベトナムや日本と違って上座部仏教なので、出家した本人にしか御利益がないのが原則です。ですが、ここがまたタイらしいのですが、自分の家族、特に息子が出家すると周りも功徳を積むことになるというお裾分けのような発想があるので、親孝行のために出家する成人男性もたまにいるのです。というわけで、こういった変わった休暇も社会的に認められてるのです。
 
とはいえ、何度も出家したり、数ヶ月も出家されたりした暁には会社側としてはたまったものでもないので、人生で1度切りの7日間までと設定したりします。そうです、たった7日間ですが、親孝行のための出家でしたらこのくらいはある話で、すぐに還俗するのです。
 
ちなみに、この出家休暇、イスラム教徒向けにメッカ巡礼の休暇も出家同様に規定していたりもします。その場合も人生1度切りで最大7日間くらいですが。タイでは南部にそれなりにイスラム教徒が多いことも背景にあり仏教に限らずバランスを取るためにも入れておくことがあります。

 

タイの傷病休暇(マイサバーイ休暇)

所用休暇だけでだいぶバラエティに富んでましたが、ようやく次の休暇、会社側にとっては悪名高い傷病休暇、通称マイサバーイ休暇が出てきました。以前も少し触れたかもしれませんが、この休暇、何と年間で30日まで有給で取得できることに法律上規定されているのです!

但し、無尽蔵に取得できるとなったら経営上これもたまったものでもないでしょうから、一定の歯止めとして2日連続休暇の場合は医師の診断書などを義務付けることは可能です。もっとも、現実的には本当に30日近くこの休暇を取得しているスタッフは皆無でしょう。いたとしたら、問題児になっている可能性のほうが高いです。

 

出産から3ヶ月で職場復帰!タイの出産休暇が短い理由

次に出産休暇です。これは日本とだいぶ事情が異なります。日本だと今では育児休暇という形で、場合によっては1年間くらい会社としては無給でも所属したままで休暇扱いとできるところも多くなっていると思いますが、タイの場合は概ね90日になっています。これはタイに限らずと思われますが、東南アジア諸国の女性は男性よりも働き、実際に一家の稼ぎ手となっていることも多々あることによる社会的要請もあるからでしょう。当たり前のように3ヶ月くらいで戻ってくるのを目の当たりにすると、本当にたくましいなと思います。その90日間のうち、45日分の給与を法律上会社は支給する必要があることがここに盛り込まれることになります。給与の半分を保障するというもので、これはかなり本人にとっては心強い社会保障制度になっているでしょう。
 
こういったことが機能する、更に心強い背景がまだあります。タイでは共働きも普通ですが、自分の親が子供の、親にとっては孫の面倒を見てくれるということも一般的です。その見返りというわけでもないでしょうが、老後だけでなく仕送り含めて、親の面倒はしっかり子供がみるという相互扶助的な考えが今も自然に根付いています。それが故に機能している制度と言えるでしょう。

 

タイの徴兵制度と兵役休暇

さて、次の兵役休暇もタイならではです。未だに徴兵制のタイですが、たまにテレビ番組でもおもしろおかしく取り上げられているとおり、志願者以外はくじ引きによる徴兵制です。21歳の成人男性が対象となるので、学卒でないワーカー採用のメーカーでの工場などでは、当てはまる場合があります。とはいえ、兵役期間中の1~2年もさすがに給与保障できないので、上記同様45日分まで規定していれば雇用者としては問題ないです

 

タイのその他休暇…不妊処置休暇、研修による休暇

続いて不妊処置休暇ですが、これは名前のとおりですが、通常は医師の診断書に基づく日数だけの休暇を規定します。タイでも晩婚化が進み、少子化並びに高齢化社会に突入しつつあることが背景にありそうです。

最後は研修等による休暇です。こちらは無理に定める必要はありません。土日問わず研修が定期的に行われるような業種などは、あったほうが有給にできるので会社としても実施しやすいのと、逆に振替休暇も推進しやすいので、入れておいても良いくらいな項目です。

 
今回は社会的背景の違いなどから馴染みのない休暇が頻出したので、いつもより字数も割いてのご案内でした。次回は後半のメインでもあり、被雇用者の方も給与以外では一番関心があるといっても過言ではない福利厚生についてご案内していきますので、引き続きお付き合いのほどを宜しくおねがいします。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

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ライター

但野和博

但野和博

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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