2019-03-21

【タイ労働法コラム】第3回:タイにおける年次有給休暇の取扱い

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。 本コラムでは、タイの労務管理について日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。第2回目はタイの試用期間について取り上げました。第3回目の今回は、タイにおける年次有給休暇の取扱いの中でも、特にわかりにくい買取義務について取り上げたいと思います。  


  

<目次>
1. 年次有給休暇の付与義務
2. 年次有給休暇の取得申請ルール
3. 年次有給休暇の取得申請を不許可としたにもかかわらず、従業員が勝手に休んだ場合の措置
4. 未消化の年次有給休暇の取扱い
5. 最後に 
 

 
 

1. 年次有給休暇の付与義務

第1回でも述べたように、タイの法律上1年以上勤務した従業員は、6日間以上の年次有給休暇を取得する権利があると規定されています(労働者保護法30条1項)。 勤務期間が1年未満の従業員には年次有給休暇を与える義務はありませんが、転職が盛んなタイでは従業員の定着を図るため、勤務期間1年未満でも一定の年次有給休暇を与えている会社が多いといえるでしょう。  

一方、勤続2年目以降については、6日を超える年次有給休暇を与えなければならないと規定されているに過ぎず、日本のように勤続年数に応じて付与日数を増加させなければならないといった法律上の義務はありません(労働者保護法30条2項)。ただ、勤続年数に応じて付与日数を増加させるシステムはやはり多くの日系企業で採用されています。

 
 

2. 年次有給休暇の取得申請ルール

会社は年次有給休暇の取得申請手続きについて、就業規則や雇用契約書などで何日前までに申請しなければならない、などの規定を設けることができます。このような手続きを定めておくことで、休暇取得希望日の前日に申請されて、翌日の業務に支障が生じるといった不都合を避けることができますし、業務上の支障を理由に不許可としたために従業員の満足度が下がるといった事態も防ぐことができます。

 
 

3. 年次有給休暇の取得申請を不許可としたにもかかわらず、従業員が勝手に休んだ場合の措置

従業員からの年次有給休暇の取得申請について、業務に支障が出ることを理由に不許可としたにもかかわらず、従業員が勝手に休んでしまった場合、どのような措置をとることができるでしょうか。

年次有給休暇の申請を業務上の支障を理由に不許可としたにもかかわらず、当該命令に違反して従業員が出勤しなかった場合について、正当な理由のない職務放棄(労働者保護法119条1項5号、民商法583条)に該当すると判断した最高裁判例があります。したがってこのような場合には、職務命令違反として懲戒処分の対象となり得ますし、また連続して3日以上休んだ場合には、同条に基づき懲戒解雇することができます。

 
 

4. 未消化の年次有給休暇の取扱い

法律上、当該年度中に消化されなかった未消化の年次有給休暇を、年度終了時に買い取る義務は定められていません。また、就業規則や雇用契約書などで、未消化の年次有給休暇を次年度に繰り越すことができる旨を定めることができます(労働者保護法30条3項)。

もっとも、最高裁の判例で未消化有給休暇の繰越しを認めない場合には、年度終了ごとに未消化の年次有給休暇の買取義務が発生すると判断されていますので、繰越しを認めない場合には、原則として毎年買い取りが必要となります。  

では、従業員の退職に際しては未消化の年次有給休暇をどのように取り扱えばいいのでしょうか。まず、従業員が自主退職する場合や懲戒解雇される場合には、原則として未消化の年次有給休暇を買い取る義務はありません(労働者保護法67条1項)。一方、従業員が懲戒解雇によらずに解雇される(つまり普通解雇される)場合には、その時点で有している未消化の年次有給休暇(繰越による蓄積分も含む)をすべて買い取らなければならないとされています(労働者保護法67条1項、2項)。

ところが、年次有給休暇の繰越しを認める場合には、懲戒解雇の場合であっても、また従業員の自主退職の場合であっても、繰越により蓄積された未消化の年次有給休暇を買い取らなければならないとされています(労働者保護法67条2項、30条3項)。ただしこの場合、退職年度分の未消化の年次有給休暇については買取義務が免除されます。  

このように、未消化の年次有給休暇の繰越の可否により、買い取り義務の有無や範囲が異なってくるため、注意が必要です。

 
 

5. 最後に

タイでは、年次有給休暇の付与日数についての法律上の規定は非常にシンプルで、比較的自由な設計が可能となっています。ただ一方で、未消化分の買取義務、特に退職時の買取義務に関しては、判例も加味すると正確に理解しづらい点が多いため、注意する必要があります。

年次有給休暇は従業員のモチベーション維持のための重要なツールの一つですので、本コラムを参考に年次有給休暇を適切に設定・運用していただければと思います。    

 

<本記事に関するお問い合わせはこちら> 

GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

  • Social facebook
  • Social twitter

ライター

藤江大輔

藤江大輔

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

このライターの記事一覧へ Arrow box

関連する記事

【タイ労働法コラム】第3回:タイにおける年次有給休暇の取扱いに関連した記事一覧です。