「ベトナムの賃金制度は職務給ですか?それとも職能給ですか?」
多くのクライアント様からこの質問をいただきます。
日本では長年、職能給の給与体系が一般的でしたが、近年は職務給の導入が進んでいます。一方、ベトナムではどのような傾向があるのでしょうか?
この記事では、ベトナム市場における賃金制度の現状と、日系企業が採用すべき最適な賃金モデルについて詳しく解説します。
最後までお読みいただくことで、ベトナムでの賃金制度の実態や、職務給・職能給それぞれのメリット・デメリットを知り、自社に最適な賃金制度の方向性を考えるヒントが得られます。
*職務給:担当する「仕事の内容や責任の重さ」によって決まる給与。仕事ベースの評価。
*職能給:従業員本人の「能力やスキル」によって決まる給与。人ベースの評価。
ベトナムの賃金制度の特徴
ベトナムの賃金制度とひとくちに言っても、業界や企業の企業タイプによって異なります。
企業タイプごとの賃金制度の違い
ローカル企業、外資系企業(非日系)、日系企業のそれぞれの特徴を比べてみましょう。
ローカル企業
ベトナムのローカル企業では、賃金制度が明確に確立されているとは言い難いのが実情です。
これは、報酬体系が経営者や管理職の裁量に大きく依存していることが多いためです。
実際には、多くの企業で各ポストの職務内容や責任の大きさに応じた「職務給」が基本とされ、さらに個人やチームの成果に応じた短期インセンティブが加算されるケースが一般的です。こうした制度は、スピード感や短期的な成果を重視する傾向を示しています。
しかし、日本や欧米のように標準的な賃金制度の枠組みが社会全体として整備されているわけではなく、判断基準は企業ごとにまちまちで、経営者の方針によって運用のばらつきが大きいのが現状です。
外資系企業(非日系)
欧米・韓国・中国などの外資系企業では、各ポストごとの職務価値に応じた職務給をベースとしながら、業績連動型のボーナスやインセンティブ制度による成果給が加算される傾向が強いです。
日系企業
日系企業では、安定性を重視した職能給をベースとしながらも、期末に業績連動型のボーナスとして成果給が加算される仕組みが主流です。また、年収に占める成果給の比率は1-2割程度と控えめなことが多いです。
ベトナムの労働市場に適した賃金制度を考えるために、それぞれの特徴を整理してみましょう。
日本型「職能給」の特徴とメリット・デメリット
職能給は、日本企業で長年採用されてきた賃金制度です。経験に裏打ちされた職能レベルの向上が、昇給・昇進に大きく影響し、長期的な組織の安定を確保しやすい仕組みになっています。
メリット
- 安定した雇用:従業員が長く働きやすく、組織の一体感を強化できる。
- 長期的な人材育成:社員の成長や職能の習得を促進しやすい。
- 柔軟な人員配置:社内人材の柔軟な配置がしやすい。
デメリット
- 優秀な若手人材の流出:成果と報酬のリンクが弱く、特に優秀な若手にとってモチベーション管理が難しく、人材流出を招きやすい。
- 人件費のコストパフォーマンスが悪化しやすい:職能の評価が主観的になりやすく、形骸化すると、単に勤続や経験年数に依拠した給与決定に陥り、人件費が膨らみやすい。
「職能給」はベトナムでうまく機能するのか?
ベトナムでは、成果が給与に反映されることを期待する労働者が多く、日本型の職能給一辺倒の考え方では、成果と報酬の連動が弱く、モチベーションが低下し、離職につながりやすくなります。
そのため、長期的な安定雇用や人材育成を志す土台として、職能給のメリットを活かしながらも、個々の成果を適切に評価し報酬還元に反映していくという観点を補完する仕組みが必要です。
職務給の特徴とメリット・デメリット
職務給は、担当する職務の内容や責任の大きさに応じて賃金が決まる制度です。外資系企業や欧米式のマネジメントで多く採用されており、成果や役割に応じた公平・透明な報酬体系を実現しやすい仕組みです。
メリット
- 説明責任を果たしやすい:職務内容と報酬が明確で、説明責任を果たしやすい。
- 相場の外部比較が容易:外部労働市場と比較しやすく、市場競争力を維持しやすい。
- メリハリある人件費管理ができる:成果主義と親和性が高く、メリハリある人件費管理が可能。
デメリット
- チームワークの低下:業務範囲が固定化されやすく、社内の協力関係が弱まりやすい。
- 短期成果に偏りがち:長期的な人材育成や組織文化の形成が後回しになり、離職率が上昇しやすい。
- 組織の硬直化:ジョブチェンジや配置転換などの組織の柔軟性が乏しい。
「職務給」はべトナムでうまく機能するのか?
ベトナムでは、職務内容に見合った公正な報酬を重視する傾向があり、職務給の導入は社員の納得感や採用競争力の向上につながります。
一方で、職務の範囲が固定化しやすく、人材の柔軟な育成や配置には工夫が求められます。制度運用にあたっては、個人の成長や組織への貢献を適切に評価できる補完的な仕組みを併用することが効果的です。
日系企業に適した“ハイブリッド型”賃金制度とは
日系企業がベトナム市場で賃金管理する場合、「職能給」と「職務給」のいずれかに完全に振り切ったかたちでは、労使双方に違和感が残るなど、課題が生じる可能性が大いにあります。日系企業が安定した組織運営をしながら、成果を適切に評価するためには、「職能給」と「職務給」のバランスを取った「ハイブリッド型」の賃金制度が有効です。
ハイブリッド型賃金制度の基本設計例
ハイブリッド型賃金制度では、「レンジ幅のある基本給部分」と「成果連動部分」を組み合わせることで、安定性と成長意欲の両方を確保できます。
スキルアップに応じて昇給可能な“幅のある基本給”を設計する
担当する職務や責任の重さに応じて、基本給には「金額の幅(レンジ)」を設定します。
さらにこのレンジには、社員のスキル向上や業績への貢献があった場合に、昇給できる余地も持たせておきます。こうすることで、ある程度の昇給を見込める設計になり、社員の安心感や定着にもつながります。
一方で、基本給のレンジには必ず職務や責任の重さに応じた適切な上限額を設定します。
そして、たとえ勤続年数が長くなっても、職務や責任の内容が変わらない限り、その上限を超えて昇給しないようにします。
評価を適切に報酬に反映する
評価基準はできるだけ明確にし、
- 売上やプロジェクト達成率といった定量的な業績指標
- リーダーシップや問題解決といった定性的な行動指標
の両方を組み合わせて運用します。
また、これらの評価指標と報酬の結びつきを明確にするため、
定量的な業績指標は賞与(ボーナス)に、定性的な行動指標は昇給に反映させるといった運用方法をとる企業も少なくありません。
ボーナス・インセンティブ制度の最適化
モチベーションを維持・向上させるために、
- 短期的なインセンティブ(毎月・四半期の業績手当)
- 長期的なインセンティブ(年次評価に基づくボーナス)
を両方検討することができます。特に、営業職などの短期的な成果が定量的にわかりやすいフロント系の職種では、両方を併用するのが効果的です。
また、ボーナスの一部を会社全体の業績と連動させることで、個人の目標達成だけでなく、組織全体への貢献意識(エンゲージメント)を高めることにもつながります。
昇格の透明性を確保
昇格については、勤続年数だけに依存するのではなく、成果や実力に基づく運用が求められます。
そのために、明確なキャリアパスを提示し、一定の成果を上げるだけでなく、行動指標の面でも昇格条件を満たした社員のみが昇格できる仕組みを整えることが重要です。
また、定期的なフィードバックを通じて、次のレベルに昇格するための昇格要件を満たすにあたり、どこが伸びしろとなってくるのかを本人と認識合わせをしていくこともあわせて行うべきでしょう。
日系企業がベトナム市場で安定的かつ成果志向の組織運営を実現するには、こうした「ハイブリッド型」賃金制度の導入が非常に有効です。
ただし、導入にあたっては、業界の特性や自社の状況を踏まえた上で、慎重に設計することが求められます。
まとめ
従業員のワークモチベーションを高め、求める人材の採用と定着を図り、事業計画を達成していくには、どのような賃金制度が自社にとって最適なのか、多くの企業が試行錯誤を重ねています。
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