2016-11-07

基本給はどう決めるか? ~基本給ピッチ額の計算~

こんにちは。
ICONICで人事労務コンサルティング部門を統括しております長浜です。

最近、ベトナムでの人事制度構築についてご相談を頂く機会が増えています。その中でも、マネジメントの頭を悩ます人事制度まわりのトピックスであり、求職者の方にとっても気になる、「基本給」についてご紹介します。

前回は何に対して基本給を支払うか、定期昇給の有無、査定の有無、昇給ベクトルについての方針を決めたら、実際に基本給ピッチの設計作業に入っていきます。


基本給ピッチの設計

まずは、以下のように、基本給ピッチ額を決めていきます。

賃金カーブを決める

キーとなる年齢時点での標準的な給与額イメージ(※ここでは仮に基本給+役職手当の合計額とし、個々人のその他条件で変動する手当は含まない賃金カーブをイメージします)を決めていきます。

これらを決める際には、給与水準の統計資料や競合他社給与水準のベンチマーク情報などを参照し、自社として何歳くらいでいくらくらいの給与額を実現したいのか、を決めていくことになります。
なお、ここでいう、「キーとなる年齢時点」というのは、大概のケースにおいて、以下のような年齢時点になります。

[A] 18歳、高卒新卒時点での給与額
[B] 22歳、大卒新卒時点での給与額
[C] 大卒新卒時点から標準的なペースで社内昇進した社員が課長職へ就く想定年齢時点での給与額
[D] 非管理職から管理職へ昇格した際に実現したい給与差額
[E] 最高職位で定年年齢時点で実現できる最高到達給与額
[F] 最低職位に定年年齢まで滞留した場合の最低到達給与額

基本給ピッチを計算する

※ここでいうピッチとは昇給角度を意味し、単位当たりの昇給額のこと。
以下の式にあてはめ、課長職に就くまでの年間あたりに想定される基本給ピッチを計算します。

[C時点の基本給額] – [B(又はA)時点の基本給] / [C時点の年齢] – [B(又はA)時点の年齢]

基本給ピッチ

基本給ピッチ額が計算できたら、そのピッチ額を何の要因によって実現したいのかを配分していく作業に入ります。

基本給ピッチ配分を決める

基本給を複数の賃金テーブルで構成することにする場合(例:年齢給+職能給)、上記で求めた年間あたりの基本給ピッチ額(=昇給予算)の何%を年齢給、何%を職能給での昇給で実現するか、という配分を検討します。更に、職能給については、習熟昇給額(=同一資格等級内で号棒を上がっていく時の昇給額)への配分予算と昇格昇給額(=資格等級が1つ上の等級へ昇格する時の昇給額)への配分予算に分配します。

ここで、習熟昇給への配分が多くなるほど年功型、昇格昇給への配分が多くなるほど格差型の賃金カーブとなるという性質がありますので、この点も踏まえて自社にあった配分を検討します。

初任給時点の配分を決める

同様に、基本給を複数の賃金テーブルで構成する場合は、初任給額のうちの何%を年齢給、何%を職能給として初任給を構成するかを決めます。

それぞれの配分割合が決まれば、基本給ピッチ額にその割合を乗じて、それぞれの基本給構成要素ごとのピッチ額が具体的な金額で計算できます。

基本給ピッチ2

基本給ピッチ額とその配分について、ここまで全体方針が整えば、あとは想定した賃金カーブを実現できるように、具体的に賃金テーブルを引いていく作業に入っていきます。

昇格昇給と習熟昇給のコンセプトの違い

習熟昇給は毎年の昇給額

習熟昇給は、先述の通り、人事考課の結果、昇格を伴わず、同一資格等級内にとどまったとしても、この1年間の習熟度の向上に対して職能給を昇給させる際の昇給額です。従って、社員が毎年の人事考課の結果、いくら昇給するのか、最も気になる金額です。

習熟昇給額の絶対額の決め方として、場合によっては、習熟昇給と昇格昇給の割合を決めてから、年間の職能給全体の昇給予算にその割合を乗じて、習熟昇給額の絶対額を決める、というやり方よりも、昇格を伴わないが、標準的なパフォーマンスだった社員の給料が大体年間あたりいくらくらい絶対額で昇給すれば、現在の会社の実情に合いそうか、という観点から、習熟昇給額の絶対額を決め、残りの職能給全体の昇給予算を昇格昇給予算へとふる、という考え方の方がしっくりくる方もいるでしょう。

昇格昇給は上位等級への昇格に向けたプール金

一方で、昇格昇給は、資格等級が1つ上の等級へ昇格する時の昇給額であり、年間当たりの昇格昇給予算はあるものの、昇格時まで社員には支払われずプールされ、昇格と同時に、そのプール金分が一気に昇給するというイメージでとらえると分かり易いでしょう。

社員にとっては、昇格と同時に、ぐっと基本給の水準感が上がることによって昇格モチベーションの一つとなりますし、会社にとっては、昇格昇給に昇給予算をふることで、昇格に値するような優秀な社員のみ選別的に昇給させられる、つまり、逆を言うと、昇格に値せず、ずっと下位等級に滞留を続ける社員には、昇格のためにプールしている昇給予算が一向に支払われない、というコストパフォーマンスの高い昇給予算の活用ができるというメリットがあります。

 

上記のように、それぞれの昇給のさせ方の特性を踏まえると、なぜ習熟昇給への配分が多くなるほど年功型となり、昇格昇給への配分が多くなるほど格差型の賃金カーブとなるかという背景も簡単に理解できるでしょう。

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ライター

長浜みぎわ

長浜みぎわ

ICONIC 組織人事コンサルティング部統括部長/取締役/賃金管理士。 横浜国立大学卒業後、日本及びフランスの中小企業を対象とする経営コンサルティング企業にて、新規事業の開拓支援を行う。2006年より青年海外協力隊としてウガンダにて民間職業訓練校における人材育成需要及び労働市場で求められる人材需要に関する調査を実施。2007年に渡越後、三井住友銀行ホーチミン支店にて法人営業を担当。2010年、ICONIC取締役に就任。

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