2025-10-17

【連載第2回|ベトナム給与相場を読み解こう】数字に振り回されないための給与相場の考え方

いつも大変お世話になっております。ICONICの長浜です。

本日は、特別連載(全3回)「ベトナム給与相場を読み解こう」の第2回をお届けします。

ICONICが10月2日に発刊した最新版『2025年版ベトナム給与統計レポート(詳細版)』の調査結果をもとに、ベトナムにおける「給与相場のいま」と「正しい相場情報の読み方」を毎週木曜日に掘り下げていきます。

第1回の記事「静かに進むベトナム給与相場の地殻変動」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。

第2回となる今回は、「数字に振り回されないための給与相場の考え方」をお届けします。


「相場より高い/低い」で判断すると迷走する


相場データを見ると、つい「うちの給与は相場より高いのか、低いのか」が気になります。

しかしながら、相場より高いから抑える、低いから上げる。こうした単純な比較だけでは、「他社と同じであること」をゴールにしてしまい、自社にとって最適な判断か分からないだけでなく、競争優位にもつながりません。

相場を参考にすること自体は大切ですが、相場に合わせることが目的になった瞬間、何より大事な自社の判断軸を失ってしまいます。


まず、自社にとっての要職(Critical Position)を特定する


相場データに向き合う前に、「自社の軸」を持つことが何より重要です。その第一歩が、自社にとって特に重要な職種・職位=要職(Critical Position)を明確にすることです。

要職とは、会社の成長や利益、技術力、顧客関係など、事業を動かす中核の要素に重大な影響を与えるポストを指します。すべての職種が要職になるわけではありません。

たとえば、ある専門商社の例をあげましょう。この会社では、要職を「営業部門全般」と「財務経理のマネジメント人材」と定義しました。これらのポストは、取引拡大や資金運用といった成長の要であり、人材が採用できないことや失うことのインパクトが大きいと判断したのです。そのため、優秀人材を獲得・定着させるのに十分な水準の報酬を優先的に実現することを目指しました。

一方で、その他の管理部門や倉庫部門などのポストは、 相場帯程度の水準を目指す方針としました。さらに、倉庫部門は街中から離れた省にあることを踏まえて、自社が商社業界であることにこだわらず、同地域で人材競合となる製造業の倉庫部門の相場帯に合わせた水準の実現を目指しました。

このように、どのポストに厚く、どのポストは抑えるかを見極めることが、相場データを「自社の軸」で使いこなす第一歩です。


有事こそ問われる「傾斜」の考え方


近年、「周辺の工場が突然1-2百万ドン上げてきた」「社員が引き抜かれた」といった声をよく耳にします。こうした有事のときにこそ、「自社にとっての要職はどこか」という軸を持つことが求められます。

資金力が十分であれば、対象となる全社員を一律に同額程度引き上げることもできるでしょう。しかし、多くの企業ではそうはいきません。限られた人件費予算の中で対抗するためには、「どこに人件費を厚く配分し、どこを抑えるか」という「傾斜」の考え方が必要になります。

つまり、自社の事業に重大な影響を与えうる要職を明確にし、そのポストには相場より高めの水準を実現する一方で、要職ではないポストでは全体の人件費増を最小限に抑えるべく、昇給や配置数を絞るなどの現実的な判断を行うなどです。

「傾斜」を向ける方向・向けざる方向がそれぞれ明確であれば、単純に「相場より高い・低い」という議論ではなく、 「この水準は自社として狙い通りか」という自社の軸のある判断に変わります。意図的に給与水準を抑制しているポストであれば、相場帯よりも低いのが自社にとっての正解なのです。


相場に主導権を奪われないために


このような「自社の軸」の考え方を整理しておけば、たとえば本社への稟議の際に「相場からズレている」と指摘された場合でも、「どの職種に、どの理由で、人件費を傾斜的に配分しているため、相場より高め(または低め)を狙って実現している」ということを説明できます。

相場からズレている意図を説明できることこそが、相場に合わせるのではなく、相場を自社の戦略に合わせて使うということに他ならないのです。


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最終回となる次回は、実際に自社データと市場データをどう結びつけ、相場における自社の位置づけをどう解釈し、その後のアクションにどうつなげていくのかの全体像を整理します。相場データを「読む」から「使う」へ。データを戦略に変える実践ステップをお届けします。

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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