2025-11-20

【連載第2回|The 昇給交渉!】要求が高すぎる社員との対話術

いつも大変お世話になっております。ICONICの長浜です。

現在、ICONICでは2026年度にむけて毎年恒例の「ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です。昇給・賞与の他社動向を客観的に把握されたい企業様は、ぜひこちらからご参加ください。

さて、本調査期間にあわせて、昇給交渉のリアルに迫る全4回の特別連載 「The 昇給交渉!」毎週木曜日にお届けいたしております。本連載「The 昇給交渉!」 では、現地法人の経営者・人事の皆さまが直面する昇給交渉の場面をテーマに、要求が高すぎる社員との対話術や現場で迷いがちな昇給判断の整理の仕方を4回にわたり考えていきます。

第1回の記事「交渉前に知っておきたい「昇給」と「賞与」の性質の違い」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。

2回目となる今回は、「要求が高すぎる社員との対話術」をテーマにお届けします。

昇給交渉の場では、「他社ではもっと上がっています」「私の価値ならこの金額が妥当です」といった主張が出てくることは珍しくありません。ここで焦って「上げる/上げない」の二択の話に終始すると、対話の視野が急速に狭まり、建設的な議論が難しくなります。

そこで今回は、3つのステップにわけて、こうした場面での話の進め方を解説します。


ステップ①:まずは「聞く」。金額の裏にある懸念を立体的に把握する。


要求が高いと感じると、つい「その水準は難しいよ」と結論を先に伝えたくなります。しかし、最初から結論ありきで返すと、相手も「聞く耳を持たれなかった」と受け止め、対話がその時点で終了してしまいます。

まず必要なのは、否定せずに背景を聞く姿勢です。社員が「金額」として提示してくる要求の背景には、次のような不安や懸念、違和感が潜んでいることがよくあります。

  • 業務の広がりに対する報酬の不足感
  • ネットやSNS、友人から得た給与情報とのギャップ
  • 自分の貢献が十分に評価されていないという不安

そこで、まずは落ち着いてこう問いかけてみましょう。

「どうしてそう思ったのですか?」

「具体的にどのような点に違和感や懸念を感じているのですか?」

このような問いかけを通じて、単なる金額要求ではなく、その裏側にある「満たされていない感覚」や「違和感の構造」 が立体的に見えてきます

ここを理解しないまま金額の合意だけをしてしまうと、数年後に同じ交渉が繰り返されたり、同じ構造を抱える別の社員にも連鎖したりします。まずは「何が満たされていないのか」という背景構造を把握することが、次のステップへの前提となります。


ステップ②:「期待役割」を軸に、本人の現在地を一緒に整理する。


背景構造をつかんだあとは、会社としての「期待役割」に話題をむけることがポイントです。

ここで重要なのは、社員の認識を否定することではなく、市場相場を参照としながらも、会社としての「期待役割」を軸に給与の適正値を判断していることを丁寧に共有することです。

昇給交渉がこじれやすい理由には、

  • 市場相場の情報収集が「自分より高い水準」を中心に偏りがち
  • 自分が果たせている役割についての認識が会社側とズレることがある

という情報と認識の偏りが往々にしてあります。

したがって対話の目的は、「市場相場の話」に終始することではなく、「期待役割に照らした本人の現在地の確認」へと視野を広げることにあります。

以下の流れにそって、「期待役割」の観点から、本人の現在地と成長した先の昇給イメージを冷静に整理しましょう。

  • あなたのポストにどのような役割を期待しているのか
  • 現在どの程度その期待役割を果たせていると評価しているか
  • 来期以降、どの期待役割をもっと拡張・強化していくとよいか
  • 役割を拡張・強化した先に実現できる報酬水準の目安がどの程度か

ステップ③:二択ではなく、「複数の選択肢」を提示し、落としどころを探す。


昇給交渉がこじれる典型は、要求通りに「上げる/上げない」の二択に陥るケースです。

しかし人事の実務においては、多様で現実的な選択肢がたくさんあります。たとえば、

  • 【短期報酬での還元】
    今期の成果が大きい場合は、賞与・インセンティブ側でしっかり報いる
  • 【実力向上を伴う昇給プランの提示】
    次の等級への昇格要件と到達後の給与水準の目安をセットで示し、成長と報酬の関係に腹落ちしてもらいつつ、成長を支援する
  • 【過剰な業務負荷の低減】
    業務・役割の整理を行い、業務負荷を減らし、報酬とのミスマッチを是正する
  • 【生産性向上による昇給原資確保】
    業務効率化の見通しや要員計画と連動して、昇給原資を追加確保する選択肢を検討する
    (例:部門として業務プロセス改善により効率化が見込める場合、その効果の一部を昇給原資に転換するなど)

このように、昇給額だけを中心に据えず、広い視野で複数の選択肢を提示することで、双方が納得しやすい落としどころを探しやすくなります。また、会社として社員の違和感に熱心に対峙しようとしている姿勢が信頼感をうむことにも繋がります。


昇給交渉の本質は金額をめぐる議論ではなく、
期待役割と報酬をつなぐ目線のすり合わせ。


ここまでの3ステップが示すように、昇給交渉の本質は金額をめぐる議論ではなく、「どのような役割をどの水準で果たすことで、どの程度の給与額を実現できるのか」という、期待役割と報酬をつなぐ目線のすり合わせにあります。

期待役割というと抽象的に記述された役割定義を想起しやすいと思いますが、それを職種の文脈に具体化できるかどうかで、期待値と現在地の共有精度は劇的に改善します。この期待値の具体化こそが、上司と部下の間で目線がしっかり擦りあう鍵であり、上司の腕の見せ所でもあるのです。


ベトナム市場の昇給・賞与動向を、把握できていますか?


現在、ICONICでは「2026年度ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です(回答締切:12月5日)。昇給交渉の場では、期待役割と市場相場の両方を整理して提示できるかどうかが対話の質を左右します。ぜひこの機会にご参加いただき、自社の判断材料としてご活用ください。

🔔 次回予告(第3回)|「金額」と「期待値」を同時にすり合わせる昇給交渉のすすめ

次回は、この「期待値」を職種固有の文脈に具体化し、昇給交渉の場面で「金額」と「期待値」の両方を同時にすりあわせていく対話のまとめ方を掘り下げていきます。

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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