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本調査期間にあわせてお届けしてきた全4回特別連載「The 昇給交渉!」も、今回が最終回です。第3回の記事「「金額」と「期待値」を同時にすり合わせる昇給交渉のすすめ」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
最終回は、「こじれる交渉のNGパターンと、対話を立て直すフレーズ集」をまとめます。現場で「この流れ、危ないな」と感じたときに、対話を落ち着かせて前に進めるための「とっさの一言」として、お役立てください。
NGパターン①:相場認識の違いで平行線になる
昇給交渉で最も多いこじれ方が、相場認識の違いで平行線になるケースです。社員が「他社はもっと高い」と主張し、上司側がそれを正面から否定すると、対話が止まってしまいます。
【あるあるNG会話】
社員:「他社はもっと高いって聞きました」
上司:「高い他社とばかり、比較してるからだよ」
【立て直しのポイント】
こうした場面では、相手の主張を反応的に否定せずに、給与は外部相場と社内の役割評価の両面で決まるという判断軸に対話を戻すことが大切です。
【対話を立て直すフレーズ】
上司:「相場感は大事な参考情報です。会社としても複数の情報源から集め、できるだけ客観的に捉えるようにしています。その上で給与は、外部の相場だけでなく、社内であなたが果たしている役割も踏まえて決めるものなので、両面から整理していきましょう。」
NGパターン②:感覚論の応酬に終始してしまう
次に多いこじれ方が、「評価されていない」「十分にやれていない」といった感覚論の応酬に終始してしまうケースです。このままでは結論には近づきませんが、なぜそう感じるのかの背景を具体的に擦り合わせることができれば、認識差を解消する糸口になります。
【あるあるNG会話】
社員:「正直、ちゃんと評価されてないと感じます」
上司:「私の評価では、正直、もっとやれるはずだと思っているよ」
【立て直しのポイント】
こうした場面では、「どの場面でそう感じたのか」と認識差がある背景を具体的に理解するための問いかけをすることが有効です。
【対話を立て直すフレーズ】
上司:「そう感じた理由を、ちゃんと理解したいです。どの仕事の場面で、そう思うことがあったのか、具体的に教えてもらえますか?」
NGパターン③:金額交渉だけに終始してしまう
「いくらが妥当か」という金額交渉だけに終始してしまうときも、交渉は難航しがちです。金額の話だけが前に出ると、互いにそれ以上広げようがなく、平行線になりやすくなります。
【あるあるNG会話】
社員:「最低でも〇〇〇ドンの給与額にしてほしいです」
上司:「その水準は無理です」
【立て直しのポイント】
こういうときは、いったん相手の目線を期待役割の方へ移し、給与と役割のレベルを均衡させる視点に戻すとバランスのとれた議論に導きやすいです。
【対話を立て直すフレーズ】
上司:「なるほど、そのくらいの給与水準をイメージしているんですね。ちなみに、そのくらいの給与水準にまで昇給する場合、役割レベルとしては、今に比べてどのくらい広げる必要があると考えていますか?」
NGパターン④:前年基準に話が引き戻されてしまう
もう一つ、現場でよくあるのが、去年との比較で交渉がこじれるパターンです。社員側が「去年まではこうだったのに、なぜ今年は低いのか」と問い、上司側がそれを一蹴してしまうと、対話はそこで止まりやすくなります。
【あるあるNG会話】
社員:「去年はもう少し上がっていましたよね。なぜ今年は低いんですか?」
上司:「去年は去年、今年は今年だから」
【立て直しのポイント】
ここでは、過去との比較で押し引きする土俵からいったん離れ、来期の期待役割と貢献の前提に話を切り替えることが重要です。
【対話を立て直すフレーズ】
上司:「昇給は、去年と同じになることを重視して決めているわけではないんです。来期、あなたからどんな貢献を期待できるか、その役割に見合う金額を提示しています。なので、来期どのくらいの役割・貢献にコミットする前提かを擦り合わせませんか?」
まとめ:交渉がこじれたら、まず押さえるべき3つの視点
NGパターンの形はさまざまでも、対話を立て直すときに押さえるべき視点はさほど多くありません。
- 全否定や一蹴したりせず、まず聞く(懸念を具体的に理解する)
- 金額イメージと役割認識をバランスさせる
- 過去の上がり幅ではなく、来期の期待役割と貢献へのコミットを基準に考える
この3つに立ち返ることができれば、対話を建設的に立て直すことができるはずです。
本連載「The 昇給交渉!」は今回で最終回となります。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。皆さまの2026年度に向けた昇給実務が、建設的かつ成功裏に進むことを心より祈念しております。
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