2025-11-27

【連載第3回|The 昇給交渉!】「金額」と「期待値」を同時にすり合わせる昇給交渉のすすめ

いつも大変お世話になっております。ICONICの長浜です。

現在、ICONICでは2026年度にむけて毎年恒例の「ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です。また、本日11/27は中間速報レポートの配信日です。本日中にご回答いただければ、即日で中間速報レポートを受け取ることができます。今すぐに、昇給・賞与の他社動向を客観的に把握されたい企業様は、ぜひこちらから本日中にご参加ください。

さて、本調査期間にあわせてお届けしている全4回特別連載「The 昇給交渉!」。第2回の記事「要求が高すぎる社員との対話術」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。

3回目となる今回は、「金額」と「期待値」を同時にすり合わせる昇給交渉のすすめをテーマにお届けします。前回は、昇給交渉の本質が「金額の押し引き」ではなく、期待役割と報酬をつなぐ目線合わせにあることを整理しました。では現場でその目線合わせをどう対話として成立させるか。今回はそこを実務的に掘り下げます。


期待値の具体化が、すり合わせの出発点になる


期待値(期待役割)は、抽象的な表現のままでは一向に噛み合いません。

「マネジャーとしての役割を果たしてほしい」

といった一般論だけでは、上司と部下が同じ景色を見られないからです。

そこで必要なのが、期待値を職種固有の文脈に落とし込み、日常業務シーンになぞらえて具体化することです。「その職種に関わる人なら、何を、どのレベルで求めているのかが想像できる粒度」まで落としこめれば、少なくともその職種の部下との間では劇的に共通認識が成立しやすくなります。

たとえば、ある会社の経理マネジャーの例であれば、次のような期待値に具体化したところ、目線合わせが劇的に進みました。

  • 月次締めを、期日どおり手戻り少なく安定運用できる状態へ到達すること
    (締め遅延や追加修正が常態化せず、締め後に大きな数字の組み替え・差戻しが発生しないレベルで回せる)
  • 税務・監査で論点になりやすい科目(交際費/福利費/外注費/棚卸/減価償却など)について、計上基準・証憑要件・承認フローを整え、運用のズレが出れば現場と調整して是正まで回し切れる状態へ引き上げていくこと
  • 属人化している処理(特定担当者しかできない仕訳パターン、Excel集計・補助簿管理、特例的な計上判断、固定資産台帳更新ルールなど)を可視化し、標準手順とチェックポイントを整備し、誰が対応しても一定品質で回るチーム運用に切り替えていくこと

また別の会社の技術マネジャーの例では、次のように技術部門の現場感に沿って期待値を具体化したことで、期待値に対する共通認識レベルが大きく改善しました。

  • 設計・開発・改善の判断基準や手順を整理し、図面/仕様/試験条件/改善履歴が誰でも追える形で標準化され、成果が属人化しない状態へ到達すること
  • 現場の不良・トラブル・改善テーマについて、原因の見立て→対策立案→検証→定着→再発防止までを現場と連携して一貫リードできるレベルに引き上げていくこと(歩留まり悪化や工程内不良が出た際に、発生工程・条件・作業要因を切り分け、恒久対策(条件変更/治具・設備改良/検査工程の組み替え/作業標準の改定など)を設計し、試作・データ検証を経て現場運用に乗せ、再発しない状態まで持っていく)
  • 中期の製品/工程/技術ロードマップを描き、「数年先に必要な技術レベル」「そのために仕込む改善・開発テーマ」「誰にどんな経験を積ませるか」をセットで整理し、技術レベルの育成が中期計画通りに進む状態をつくること

こうしたリアルな業務シーンに紐づく期待値を言語化できると、その中で「現在どこまでできているのか」「どこから先が次の伸びしろなのか」という話が、一気に噛み合い始めます


すり合わないときほど、「少し先の未来」から話を始めよう


交渉が平行線になりやすいのは、「いくら上げるべきか/上がるべきか」という来期の給与額の妥当性だけで話を進めてしまうときです。このモードに入ると、どちらかが妥協する中で、すれ違いの種を残したまま終わりがちです。

そこで、すり合わないときほどおすすめしたいのが、2〜3年先の未来イメージから話を始めることです。


「金額」と「期待値」を同時にすり合わせる逆算型の対話


まず、来期の給与額から入らず、先にゴールイメージを共有します。

① 2〜3年先の期待役割と報酬額のイメージをセットですりあわせる

  • 「2〜3年後、このポストでこのレベルの役割を担ってほしい」
  • 「そこまで到達できたら、報酬はこのレンジが視野に入る」
    このように、先に未来像をすりあわせることで、「どの役割水準に、どの報酬が対応するか」という土台がそろいます。

② 未来の基準がすり合ったうえで、役割側の今の到達度を整理する

すりあった未来の基準に対して、

  • 「今はどこまで役割を果たせているか」
    を冷静に確認します。ここで、未来基準に到達する中継地点として現給与を位置づけます

③ ゴールとの距離感と到達年数を合意し、単年度の昇給妥当額を逆算する

その上で、

  • 「ゴールとのギャップはどの程度あるか」
  • 「ゴール到達まであと何年かかるか」
    をすりあわせます。そうすることで、ゴール時の報酬額イメージと現給与額の差を、合意した到達年数で割り戻すと、「その年数で到達するために、今年どのくらい上げるのが妥当か」が見えてきます。

そして、もしその際に算出した今年の昇給妥当額が本人の希望に届かない場合は、「では、希望額を来期中に実現するのであれば、更にどの程度の役割拡張が来期中に必要か」という形で、その金額に見合う果たすべき期待役割の話にしっかりつなげ、「金額」と「期待値」を両輪ですり合わせるスタンスに巻き戻すことができます。


逆算型の昇給交渉が育成面談に変わる


この逆算型の対話が機能すると、昇給交渉は

  • この先どんな役割拡充を目指すべきか
  • どのスピードで成長すべきか
  • その成長の結果、どのくらいの報酬を実現できるか

という成長ロードマップを上司部下間で共有する育成面談に様変わりします。

「今年いくら上げるか」だけで決めようとするより、少し先の未来像から逆算して合意をつくるほうが、結果的に本質的な対話ができ、近道になることも多いのです。これが、昇給交渉を実りある対話に変え、「金額」と「期待値」を同時にすりあわせるコツです。


ベトナム市場の昇給・賞与動向を、把握できていますか?


現在、ICONICでは「2026年度ベトナム昇給率・賞与調査」を実施中です(回答締切:12月5日)。中期の期待役割と報酬イメージを描く際にも、市場相場は重要な補助線になります。ぜひこの機会にご参加いただき、自社の判断材料としてご活用ください。

🔔 次回予告(第4回/最終回)|こじれる交渉の地雷パターンと、対話を立て直すフレーズ集

最終回は、現場で陥りがちな「昇給交渉がこじれる地雷パターン」を整理し、対話がずれそうなときに、対話を立て直して議論を前に進めるためのフレーズ集とあわせてご紹介します。

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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