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本連載では、ICONICが1月6日に発刊した最新版『2026年版ベトナム昇給・賞与レポート(詳細版)』の調査結果を前提資料としながら、テト前に整理しておきたい昇給・賞与の考え方を、実務の視点で掘り下げています。
前回は、業態や拠点の役割、事業フェーズの違いを踏まえながら、「賞与原資を何を基準に考えるべきか」というテーマを整理しました。まだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
第3回となる今回は、昇給にテーマを移し、「昇給原資をどう考えるべきか」を取り上げます。
昇給案を検討していると、意外と陥りがちなこと
昇給案を検討していると、結果として「業績が良かった年は昇給が厚く、厳しかった年は薄くなる」という判断に落ち着いているケースは意外と少なくありません。
必ずしもそれ自体が誤りというわけではありませんが、昇給原資の判断が業績の良し悪しだけに左右され過ぎていないか、また、業績以外の要素もきちんと加味できているかは、昇給案を確定させる前に、一度立ち止まって確認しておきたいポイントです。
昇給を賞与と同じ感覚で考えないために
昇給は、一度決めると翌年以降の給与水準に影響が残る判断です。賞与のように単年度で完結する報酬とは、この点が大きく異なります。
また、賞与が主に当該年度の業績を基準に決まるのに対し、昇給は個社の業績だけでなく、労働市場の相場や物価動向、最低賃金の動きといった外部環境の影響を強く受ける報酬でもあります。
このような昇給と賞与の性質の違いについては、過去の連載記事で詳しく整理していますので、より深く確認したい方は併せてご参照ください。
昇給原資を曖昧にすると、数年後に困る
昇給原資の考え方が整理されないまま運用を続けていると、数年後、次のような場面で判断に困りやすくなります。
- 評価は高いが、すでに昇給余地がほとんど残っていない社員が増えてくる
- 市場水準と比べて、気づかないうちに給与水準に歪みが生じている
- 毎年「今年はどうするか」という議論ばかりが続き、来年以降の選択肢が狭まる
これらは、個別の評価や制度設計の問題というよりも、昇給原資をどういう考え方で積み上げてきたかという運用の結果として表面化する論点であることが少なくありません。
昇給原資を考える際に持つべき視点
昇給原資を検討する際には、業績以外に、少なくとも次のような視点を持っておく必要があります。
① 市場水準との関係
自社の給与水準が、市場の中でどの位置にあるのか。相場と比べて低いのか、すでに高いのかによって、取るべき昇給スタンスは大きく変わります。
② 数年先を見据えたとき、人件費は無理なく維持できるか
今の昇給判断を積み重ねた結果、数年後に人件費のバランスが崩れないか。
③ 採用・定着への影響
昇給を抑えすぎた場合に、採用や定着にどのような影響が出るのか。逆に、上げすぎた場合に、組織内のバランスが崩れないか。
昇給は「社内外での賃金バランスを整える」ための判断
昇給とは、本来、社内外の賃金バランスを、自社の報酬方針に沿って整えていくための判断です。
対社外では、「市場相場の中で、どの程度の給与競争力を目指すのか」という目線があります。
一方、対社内では、現時点での給与水準や賃金レンジの分布という現実があります。
この両者を突き合わせたときに、
- 市場対比で高すぎる、あるいは低すぎる給与水準でないか
- 本来目指す給与水準に対して、いびつな給与分布や賃金レンジになっていないか
を確認し、そのズレを是正していく手段の一つが「昇給」です。そのうえで、
- 本来目指す給与水準に近づくために、今年どの程度の昇給が必要か
- そのための昇給原資を、今期の業績でどこまで確保できるのか
を整理していくことになります。
もし、今年の業績では必要な昇給原資を十分に捻出できないのであれば、本来目指す給与水準を実現するまでの期間を想定より長くするという判断も現実的な選択肢です。逆に、好業績によって余力があったとしても、必要以上に昇給を厚くし、将来の人件費構造を歪めないよう冷静で中長期目線をもった判断が必要です。
こうした客観的かつ冷静な昇給判断の前提となる、業界別・地域別の昇給率実績や2026年予測については、「2026年版ベトナム昇給・賞与レポート(詳細版)」で、より具体的な数値をご確認いただけます。
📍次回予告(最終回)
昇給と賞与を組み合わせて考える― 昇給できない優秀者に、どう報いるか ―
評価は高いものの、給与水準がすでに高く、これ以上の昇給が難しい社員をどう処遇すべきか。昇給時期になるとわりとよく寄せられるお悩みです。最終回では、昇給と賞与を組み合わせた実務的な報酬設計の考え方を整理します。