2026-10-22

第1回|評定が実態を映していない

2027年度に向けた昇給・賞与の決定を前にしたこの時期にこそ見直しておきたい、陥りがちなミスとその対策を全4回にまとめて、ベトナム昇給・賞与調査2027開催期間中の毎週木曜日に解説してまいります。

【各回のテーマ】

  • 第1回|評定が実態を映していない
  • 第2回|評定間で処遇にあまり差がつかない
  • 第3回|予算ありきで評定を決めている
  • 第4回|相場データを読み違えている

◆ すべての起点となる「評定」を点検する

昇給・賞与を決めるプロセスは、大きく2つの工程に分かれます。

  • 【前工程】一人ひとりの評定を決める
  • 【後工程】評定に基づいて昇給額・賞与額を決める

第1回で取り上げるのは、前工程の評定の決め方です。評定は、評定ごとの昇給率や賞与月数の当てはめ、予算との調整といった後工程すべての起点になります。そのため、評定が実態を反映していなければ、後工程の計算がどれだけ正確でも、最終的に決めた昇給・賞与額が実態を反映しないものになってしまいます。

適切な昇給・賞与を決めるには、まず出発点をしっかり整えることが欠かせません。自社の評定の決め方を、改めて点検していきましょう。


◆ ベトナムの職場で特に多い、評定が実態を映していない3パターン

  • ① 中心化:ほぼ全員が「B(標準)」

差をつけることへの抵抗や、低い評定をつけた後の部下への説明を避けたい気持ちから、評定が真ん中に集まるパターンです。期中に十分なフィードバックをしていない場合、期末になって急に厳しい評定は出しにくい、という事情もよく見られます。その結果、成果を上げた人とそうでない人の昇給・賞与額がほぼ同じになり、「頑張っても報われない」という不満が、優秀な人材の離職の原因や温床になることもあります。

  • ② 寛大化:「A以上」が大半を占める

部下のモチベーション低下や離職を恐れて、評定が甘くなるパターンです。転職による賃上げが一般的なベトナムでは特に起こりがちです。また、毎年少しずつ評定が上がり、数年たつと「Bは実質的に低評価」という状態になっている企業も少なくありません。その結果、標準的な働きの人にも高い昇給率が適用されて予算の多くがそこに使われ、本当に成果を上げた人に十分な額を回せなくなります。

  • ③ 評価者間のばらつき:上司によって甘辛が違う

同じ働きぶりでも、評価者によってAになったりBになったりするパターンです。海外本社から赴任してきた管理者とローカルマネジャーで評価の目線が違う、赴任者の交代で基準が変わる、といった多国籍組織ならではの要因もあります。その結果、所属部署によって昇給・賞与額が変わり、社員同士が評定や昇給額を比べ合いやすい環境では、「なぜあの人がAで自分はBなのか」という不満に直結します。


◆ 評定の決め方、代表的な4つの方法

こうしたパターンを防ぐには、評価者一人ひとりの努力や、評価者研修などを通じて評価スキルを高める企業としての育成の取り組みが大切なのはもちろんです。ただ、評価者の経験や価値観、国籍や言語がさまざまな職場では、それだけでなく、評定の決め方という「仕組み」の面からも見直していくことが求められます。

ここでは、評定の決め方として代表的な4つの方法をご紹介します。

① 絶対評価:基準に照らして一人ひとりを判定する

あらかじめ決めた基準に対して、「できたか・できなかったか」で評定をつける方法です。

  • 強み:基準が明確なら、本人に理由を説明しやすく、納得感を得やすい。全員が基準を超えれば全員を高く評価できる。
  • 弱み:評価者の判断に頼るため、中心化・寛大化・甘辛のばらつきが起こりやすい。結果の分布が読めず、原資の管理が難しくなる。

② 相対評価:集団の中での順位で判定する

評価する集団の中で順位をつけ、「Aは上位20%」のように分布に当てはめる方法です。

  • 強み:差が必ずつき、評価者間の甘辛も吸収できる。分布が決まっているので原資の管理がしやすい。
  • 弱み:全員が頑張っても誰かがCになる。人数が少ない集団や、優秀な人が集まった部門では不公平になりやすい。「基準」ではなく「順位」なので、本人への説明が難しい。

③ ハイブリッド評価:両極端は絶対評価、中間層は相対評価

誰が見ても突出している優秀者と、明らかに期待を下回っている人は、基準に照らして先に評定を確定させます。残りの中間層には順位付けを取り入れ、「Bの中でも上位はB+」のように差をつけます。

  • 強み:両極端の評定は現場の肌感と一致しやすく、中間層にもきちんと差がつく。優秀者が相対評価の枠で頭打ちになることも、中間層が一律Bになることも防げる。
  • 弱み:両極端と中間層の線引きや、順位付けの進め方など、運用のルールをあらかじめ決めておく必要がある。

④ 昇給と賞与で使い分ける:昇給は絶対評価、賞与は相対評価

昇給は基本給に積み上がり、翌年以降もずっと続くものです。そのため、等級に求められる能力・役割をどこまで満たしたかという「基準への到達度」を基にした絶対評価で判断する、という考え方があります。一方の賞与は、会社業績などで決まった一定の原資を、その期の貢献に応じて分けるものと捉えて、順位で決める相対評価を用いる、という考え方です。

  • 強み:社員にとっては、長期的な成長は昇給に、その期の頑張りは賞与に、と別々の形で報われるため、評価への納得感を得やすい。
  • 弱み:評定を2種類つけることになり、評価者の負担や、社員への説明が増える。

◆ 自社に合った評定の決め方を選ぶ視点

どの方法が正解かは、組織によって異なります。選ぶときは、次の点を確認してください。

  • 評価する集団の人数:相対評価は、同じ等級・職種でまとまった人数がいないと機能しません。小さな部門は複数をまとめて評価集団にする工夫が必要です。
  • 基準の整備度:等級ごとの基準が言語化されていないまま絶対評価をすると、評価者の感覚に頼ることになり、評価者によって判断がばらつきやすくなります。
  • 評価者の目線のそろい具合:国籍やバックグラウンドの異なる評価者の間で目線が違う場合は、相対評価の要素を入れたり、評定会議ですり合わせたりする仕組みが欠かせません。

評定は、昇給・賞与のすべての計算の出発点です。「どう評定を決めているか」という手法そのものを、決定前のこの時期に一度見直してみてください。


◆ 改めて、「ベトナム昇給・賞与調査2027」へのご協力のお願い

弊社が主催するベトナム昇給・賞与調査2027は、毎年年末に実施している定点観測調査で、昨年は427社にご参加いただきました。本連載で触れるような評定ごとの昇給率や賞与月数の目線を、市場の実態と照らし合わせて自社の判断に活かしたい方に、具体的な根拠データとしてご活用いただいています。回答企業様は、本調査結果のサマリーデータを無料で閲覧いただけます。ぜひご協力ください。

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📍次回予告(第2回)| 評定間で処遇にあまり差がつかない

評定はきちんとつけたのに、いざ昇給率や賞与月数に落とし込んでみると、AとBの差はごくわずか。頑張った人ほど「評価されても報われない」と感じてしまう。こうした状況は、評定そのものではなく、評定を処遇に結びつける段階で起きています。評定間の差をどの程度つければメリハリとして伝わるのか、その設計にも押さえておきたい考え方があります。次回は、この論点を解説してまいります。次回もどうぞお楽しみに!

横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。 2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。 2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。 2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。 ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。コーネル大学ILRスクール/報酬・福利厚生プログラム修了。

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