2025-05-22

第1回|なぜベトナムで「賃金管理」が重視されるのか?

本日より、全10回の特別連載企画「ベトナム賃金管理入門」をお届けします。

ベトナムでの企業経営における“賃金管理の必須知識”を、今年のベトナム給与調査期間中の毎週木曜日に掘り下げていきます。


なぜベトナムで「賃金管理」が重視されるのか?


ベトナムは中長期的に堅実な経済成長が見込まれる国として、ASEAN地域の中でも注目を集めています。

足元では、アメリカの関税政策の見直しの影響もあり、輸出産業を中心に先行きがやや不透明な局面もありますが、それでも国内経済の基礎体力は強く、今後も持続的な発展が期待されています。

このような経済成長とともに人件費も確実に上昇しています。

たとえば、ホーチミン市やハノイ市など都市部を含む第1地域における最低賃金は、2013年には2,350,000 VNDでしたが、2024年には4,960,000 VNDに達し、この10年間で約2.1倍になりました。これは労働者側の生活水準の上昇と企業側の人件費負担がともに大きくなっていることを示しています。

その中で、企業にとって賃金上昇への対応が避けて通れない課題となっています。
しかし、ベトナムにおいて賃金管理が重視される背景は、こうしたコスト面だけではありません。

実は、労働市場の特徴そのものが、日本とは大きく異なるのです。

 


ベトナム労働市場の特徴


ベトナムにおいて賃金管理が特に重要なテーマとされるのは、経済成長や人件費の上昇といった要因に加えて、労働市場の特徴そのものが大きく異なるという背景があります。

その違いは、主に次の2つの特徴に集約されます。

● 雇用の流動性が高い

優秀な人材ほどキャリアアップ志向が強く、2〜3年ごとに転職を重ねるのが一般的です。
実際、自発的な離職率は日本の1.5〜2倍ともいわれています。

● 賃金相場の変動性が高い

昇給率は年によって大きく変わります。たとえば、過去10年間で業界平均昇給率は約10% → 約5%と半減した事例もあり、景気・業界・職種による影響が非常に大きいのが特徴です。

このような「動きの激しい労働市場」においては、静的な賃金管理ではなく、相場と実態に合わせて柔軟に見直す動的な賃金管理が求められます。


給与は「ただ支払うもの」から「戦略的に設計・運用するもの」へ


さらに、ベトナムでは経験豊富な人材の確保が年々難しくなっており、JETROの調査によれば、一般管理職で67.2%、専門職種で61.8%の企業が人材不足を感じていると報告されています。
そのような中で、限られた人材をどう確保し、どう定着させるかが企業にとって喫緊の課題となっています。

このような競争環境においては、給与制度の明確性と競争力が、採用力・定着力の双方に直結するのは言うまでもありません。
実際、ICONICが実施した求職者調査に基づく「ベトナム人材トレンドレポート2025」によると、離職理由として63%、新しい仕事を選ぶ理由としては73%が「給与」を第1の決め手に挙げたという結果が出ています。
これは、給与水準自体や給与制度が明確に整っているか否かが、人材の出入りそのものを左右することを明確に示しています。

給与を「ただ支払うもの」から「戦略的に設計・運用するもの」へと見直すことは、これからのベトナム現地法人経営において欠かせません。
そして、報酬戦略を設計するための第一歩は、今の市場での“相場観”を正確に把握することにあります。


まずは給与調査に参加して現状把握する

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📍次回予告(第2回)

「うちの賃金テーブル、いつの時代のまま?」更新されない制度が招くズレと対策
給与制度があっても、見直されなければ意味がない。
“更新されない制度”が企業にもたらすズレと対策とは?
👉 次回もどうぞお楽しみに!

 

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICにて主に組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。

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