本日は、特別連載(全10回)「ベトナム賃金管理入門」の第2回をお届けします。
ベトナムでの企業経営における賃金管理の必須知識を、今年のベトナム給与調査期間中の毎週木曜日に掘り下げてお届けしております。
第1回の記事「なぜベトナムで「賃金管理」が問われるのか?」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
ベトナム現地法人を立ち上げたときに作った賃金テーブルや昇給ルール。
その後、見直しや更新をせずに、そのまま放置されていませんか?
制度を一度作って安心してしまい、物価や市場の変化に合わせて更新しないままにしていると、社内制度と市場実態の間に少しずつ“ズレ”が広がっていきます。
「制度と実態」がズレてくると…
まず起きるのは、市場とのズレによる不都合。
賃金テーブルの金額が採用相場とかけ離れていれば、制度はあっても使われなくなります。 現場では、「制度通りに賃金を決めたいけど、今の人はこの金額じゃ採れない」というジレンマも起こります。
次に、判断が人によってバラバラになる属人化が起こります。
「この人は頑張ってるから」「去年と同じで」など、基準があいまいなまま運用されがちです。そうなると、昇給の判断が担当者の主観に頼ることになり、制度が“ルール”ではなく“参考”に成り下がってしまいます。
そして最後に、社員の会社に対する信頼が揺らぎます。「評価されたけど、昇給はされない」「制度はあるけど意味がない」と思われれば、 モチベーションが下がるのは当然です。制度が社員の納得感や安心感を支える役割を果たせなくなり、離職リスクにもつながりかねません。
ズレを防ぐには?
対策は意外とシンプルです。
まずは、年に1回、“制度の棚卸し”をしてみること。
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賃金テーブルや手当の金額は、今の相場に合っているか?
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実際に現場でその制度は活用されているのか?
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社員が自社の賃金制度を理解できているか?
といった視点でチェックしてみてください。
あわせて、社内外の違和感にも目を向けること。たとえば、
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「同業他社はもっと上がってるらしい」
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「最近、昇給制度についての質問が増えてきた」
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「以前は集まっていた求人が、最近は同じ条件では集まらなくなってきた」
こうした声は、制度と実態がズレはじめている“サイン”かもしれません。
ズレてしまったら? いまからでも遅くない
もしすでに制度と実態がズレていると感じたら、次の3ステップで整理してみましょう。
ステップ1. 労働市場と自社の給与水準の差を分析する
まずは労働市場の給与相場データを入手し、自社の水準と見比べて「どの職種・職層で」「どれだけズレているか」を客観的に把握します。ここを曖昧な感覚のまま進めると、是正の方向性がブレたり、是正したのに効果が感じられないということも起こりえます。しっかりと信頼できる相場データを入手しましょう。
ステップ2. 是正にかかる予算とスケジュールを試算する
ズレのある部分が特定できたら、すべてを是正するのにどれだけの予算が必要かを計算し、今年度中に使える是正用の予算はいくらかを見極めましょう。「予算重視」か「スピード重視」かで、是正完了までの年数も変わってきます。
ステップ3. 限られた予算の中で、優先順位を決めて是正していく
単年度ですべての是正をするのに十分な予算がとれたり、小幅なズレしかない状況であれば、単年度で是正を完了するのがベストです。
ただし、現実的には大きくズレているにもかかわらず、予算は限られているという状況も多いです。その場合は、予算の範囲内でどこから手をつけるかを決めることが、現実的な運用のポイントです。
たとえば:
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離職率が高く定着に課題を抱えている職種・職層から先に是正する
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直近3年の評価がA以上で、かつ相場から大きくズレている人から優先的に是正する
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単年度、1人あたり最大100万ドンまでを是正、残りは翌年に持ち越す
などといった具合に是正の実行計画をたてて、段階的に実施していくことを検討しましょう。
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次回は、ベトナム労働法の現在の位置づけを正しく理解し、企業が不利にならないための制度設計のあり方を考えます。
📍次回予告(第3回)
「その制度、“いざという時”に企業を守れるか?ベトナム労働法を踏まえた賢い設計とは」