2026-02-06

【最終回|昇給・賞与の考え方】昇給と賞与を組み合わせて考える

本連載では、ICONICが1月6日に発刊した最新版『2026年版ベトナム昇給・賞与レポート(詳細版)』の調査結果を前提資料としながら、テト前に整理しておきたい昇給・賞与の考え方を、実務の視点で掘り下げてきました。

前回は、「昇給原資はどうきめるべきか」というテーマを整理しました。まだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。

最終回となる今回は、「評価は高いが、これ以上の昇給が難しい社員をどう処遇すべきか」という、昇給検討の終盤で多くの企業が直面する悩ましいテーマを取り上げます。


評価は高いのに、昇給できない局面面


昇給検討を進めていく中で、

  • 評価は高い
  • 業績への貢献も大きい
  • できればきちんと報いたい

にもかかわらず、「既に賃金レンジの上限に到達(または超過)しており、これ以上、基本給を上げるのが難しい」という社員が出てくるケースがあります。


賃金レンジが妥当でも、なぜ起きるのか


仮に、マーケット対比においても、また社内の賃金バランス対比においても、賃金レンジ自体は妥当な水準で設定できているとするならば、それでもなおこのような状況が生まれる背景には、たとえば次のような事情が考えられます。

  • 賃金レンジを設定した際に想定していた昇給ペースを上回る昇給が、結果として続いてきた
  • 昇格の判断や運用が滞り、役割や等級の切り替えが十分に行われてこなかった
  • 本来は上位等級へ昇格させるべきだが、要員計画上の枠が空いていない

いずれも、個々の評価の問題というより、昇給・昇格・要員計画の運用が組み合わさった結果として生じやすい局面だと言えます。


労働市場の変化が、この悩みを顕在化させている


コロナ禍や、それに続く不動産不況・世界的な需要減退による景気低迷期を経て、昨今のベトナムの労働市場を取り巻く環境も、少しずつ変化しています。

これまでは、

  • 昇給がないのは考えにくい
  • インフレも高く、毎年の昇給は前提

といった空気感が強くありました。

一方で現在は、

  • 採用時のオファー額を慎重に見極める
  • 賃金水準の妥当性をより意識し、妥当な水準以上に賃金を引き上げないスタンスをとる企業も増えてきている

といった変化がより見られるようになっています。その中で、「役割に対して、すでに十分高い水準にある社員をどう扱うか」という悩みが、より現実的なテーマとして浮かび上がってきています。


昇給できないときの、実務的な選択肢


このような場合、取り得る対応は一つではありません。実務上、よく見られる考え方を整理すると、次のような選択肢があります。

① 昇給は止め、賞与で還元する

賃金レンジ上限に達している場合、無理に昇給を続けることで、将来の人件費構造を歪めてしまうリスクがあります。
そのため、

  • 本来、適正レンジ内であれば適用したかった昇給幅の12か月分相当額

を、一時金や特別賞与として支給する、という考え方は現実的な選択肢です。翌年以降に累積しない形で評価を反映できる点は、賞与ならではの特徴と言えるでしょう。


② 昇格によって、昇給を継続する

もし、

  • 上位等級に求める役割が明確で
  • 要員計画上も枠がある

のであれば、昇格によって属する賃金レンジを切り替え、昇給を継続するという判断も十分に考えられます。その場合は、

  • 期待役割の引き上げ
  • 業務視座や責任範囲の明確化

とセットで進めることで、単なる給与調整ではなく、組織としての納得感を伴う処遇になります。


③ 昇給を抑制しつつ、段階的に調整する

これまで「昇給なし」という運用をしてこなかった企業では、いきなり優秀者に昇給停止を提示することが、現実的でないケースもあります。

そのような場合、

  • 賃金レンジ上限を超えている社員には、通常昇給率にディスカウント率をかける
  • 例:
    • S評価:通常昇給率 × 50%
    • A評価:通常昇給率 × 25%
    • 標準評価以下:昇給なし

といった昇給抑制を段階的に行う運用を採る企業も少なくありません。急激な変化を避けながら、中長期的に賃金バランスを整えていくための現実的な手段です。


最後に:昇給と賞与の役割を整理する


重要なのは、昇給と賞与をその場しのぎで使い分けることではありません。

  • 昇給で何を担うのか
  • 賞与で何を担うのか
  • 賃金レンジ上限に達した場合、対応方針をどのように考えるべきか

こうした整理を事前に持っているかどうかで、毎年の昇給・賞与検討の難易度が大きく変わるだけでなく、中長期的な報酬制度の安定運用にも資するのです。

本連載では、テト前の実務判断という視点から、昇給・賞与を中長期的な賃金管理の文脈で整理してきました。最終回までお読み頂き、誠に有難うございました。

もし、自社の報酬制度や昇給・賞与の考え方にお悩みがあれば、ベトナムの賃金管理を専門とする弊社コンサルタントが実務視点でご相談を承ります。どうぞお気軽にお声がけください。

なお、今年の昇給・賞与案の具体的な数値検討にあたっては、業界別・地域別・職位別の昇給率・賞与水準の2026年予測など、客観的データが豊富な『2026年版ベトナム昇給・賞与レポート(詳細版)』で、具体的な数値をご確認いただけます。

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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