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前回は、「同業他社だけが競合ではない~同じ社内でも、人材市場の競合は職層や職種によって違う~」というテーマを整理しました。まだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
Pay Mix(=報酬構成)とは何か
月額総支給額3,000万ドンのポストに人材採用する場面を考えてみます。
全額を固定給として毎月確実に支給する設計と、基本給を2,200万ドン、役職手当を500万ドン、残り300万ドンを変動給(変動制の手当てやインセンティブ等)として設計する場合とでは、毎月の手取り総額はおおむね同じでも、採用競争力・社員の定着感・人件費管理のしやすさなどの点で、異なる結果をもたらします。
このような「給与の中身をどう組み立てるか」という問いが、Pay Mix(=報酬構成)です。総額の水準を決めることと並んで、賃金設計の重要な軸のひとつです。
Pay Mixを構成する要素
ベトナムの給与体系では、賃金はおおよそ以下の要素で構成されます。
① 固定給
- 基本給(Mức lương theo công việc hoặc chức danh, Lương cơ bản)
業務や職位に基づいて支払われる給与で、雇用契約に基づいて毎月確実に支給されます。基本給が固定給の中核をなします。
- 諸手当(Phụ cấp lương)
労働条件や職務の複雑さ、生活条件を補うために、基本給と連動して支払われる手当で、固定給の一部を構成します。なお、社会保険算定基礎額にも含まれます。
- 固定制の補足支給金(Các khoản bổ sung)
補足支給金とは、実務上、前述の基本給や諸手当以外のすべての支給金を指します。その中で、毎月定額で支給される場合は、固定給の一部を構成(例:食事補助・交通費・通信手当など)します。ただし、Decree158/2025の要件を満たす場合は社会保険算定基礎から除外できる性格を持ちます。
なお、これらの補足支給金については、「業務上発生する実費を補填しているだけであり、給与とは別物」と認識しているベトナム人社員も少なくなく、給与水準を比較する際にこの部分を除外して考える傾向も見られます。
② 変動給
- 賞与(Thưởng)
主に、業績に応じて支給額が変わる業績賞与と、「13か月目の給与」として慣例化しているテト賞与があります。なお、テト賞与は、法的義務ではないものの、ベトナムでは事実上の慣行として定着しており、固定的な性格を帯びている点は注意が必要です。
- インセンティブ、コミッション
業績目標の達成度に連動して支給するインセンティブや、売上・成約件数などの実績に応じて支給する出来高払いのコミッションも、変動給の一形態です。 ベトナム労働法上の扱いでは、賞与の一部とみなされます。
- 変動制の補足支給金(Các khoản bổ sung)
一定の条件や成果に応じて支給額が変動する補足支給金(例:皆勤手当・出来高手当など)がここに含まれます。これらもベトナム労働法上の扱いは、補足支給金の一部となります。
与手当設計をめぐる実務上の注意点
社会保険の会社負担は算定基礎額の水準に連動するため、「社会保険の算定基礎からはずれる要素である補足支給金を厚くすることで社会保険負担を圧縮する」という報酬構成の設計が、ベトナムではかねてよりしばしば見られております。
しかし、この方針には中長期的なリスクが伴います。
ベトナムの求職者・在職者が給与を比較する際には、固定給の水準が判断の基準になりやすい傾向があります。競合他社と比べて固定給が低く映る設計は、転職市場で同等の条件を求める候補者に対して不利に働くだけでなく、扶養家族を抱え、病気やケガなど万一の事態に備えたセーフティーネットとして社会保険の保障を重視するようになったライフステージにある社員に特に不評を買いやすい傾向があります。こうした層は、組織の中核を担う人材層と重なることが多く、定着感や組織への信頼に影響するリスクは軽視できません。
コスト削減を主目的とした賃金設計は、人事戦略全体との整合性という観点から慎重に検討する必要があります。
固定給と変動給の比率をどう設定するか
一般論としても、弊社が毎年実施しているベトナム給与調査から浮かび上がる実態としても、安定的な業務を担う職種(オペレーション・管理系など)では固定比率が85〜95%程度と高く、成果連動が馴染む職種(営業・プロジェクト型など)では変動比率が高まり、固定比率が70〜85%程度にまで下がるケースもあります。
また、一般的に職位が上がるほど変動給の比率を高める設計が多く見られます。これは、組織の成果に対する影響度が大きい役割ほど、成果との連動性を高めることに合理性があるためです。
とはいえ、ベトナム進出企業の現状としては、日本での水準と比べても固定比率が高めに維持される傾向があります。参考として、日本の大手人材会社が実施したボーナス平均支給額の実態調査によると、日本の年間賞与の平均は2.7か月程度とされていますが、弊社の直近のベトナム昇給率・賞与調査ではベトナムの年間賞与の中央値は1.3〜1.5か月程度にとどまっています。
これは、ベトナム進出企業の拠点がこれまで製造・オペレーションの安定稼働を主目的とするケースが多く、ローカル人材の配置においても経営層より現場オペレーション職層が中心となりやすかったことが背景にあると考えられます。今後、経営層へのローカル人材登用が進み、ベトナム国内市場や東南アジア市場を対象とした事業展開や営業機能の拡充が加速するにつれ、変動給の比率は自然と今以上に高まっていくことが予測されます。
昇給と賞与、どちらで報いるか
固定給の引き上げ(=昇給)は恒久的なコストの増加を意味します。ベトナム労働法の体系のもとでは、一度労働契約で合意した基本給を減額するには本人との修正合意が必要であり、現実の運用としては「上げた給与は戻せない」と考えておくべきです。一方、賞与やインセンティブは特定期間の成果に対応した支出であり、業績変動に応じて調整しやすい性格を持ちます。
「頑張りに報いたい」という意図が同じでも、その貢献が一時的なものか、継続的な能力・役割の向上を反映したものかによって、どちらを使うべきかは変わります。ここを混同せず、固定給の昇給と賞与をはじめとした変動給要素を適切に使い分けることが、中長期的な人件費管理の精度を高めます。
最新のベトナム給与相場をデータで知るために、ぜひ給与調査にご参加ください。
どのような固定・変動の構成にするにせよ、ポストごとの総支給額が市場水準からどの程度離れているかを把握していなければ、配分の議論は土台が定まりません。ICONICが実施するベトナム給与調査2026は、幅広い業種・職種の実支給データをベトナム全土から収集しており、自社の給与水準を市場と客観的に比較するためのデータとしてご活用いただけます。参加企業はサマリーデータを無料で閲覧可能です。ぜひご参加をご検討ください。
📍次回予告(第6回)
ローカル幹部の報酬設計 ~見落とされがちな報酬戦略の空白地帯~
次回は、昨今お問合せの増えている「ローカル幹部の報酬設計」を取り上げます。ローカル幹部登用が進む一方で、この層の報酬設計が制度的に追いついていないケースは少なくありません。一般スタッフ向けの制度をそのまま上方に引き延ばしたような設計や、個別交渉の積み重ねで根拠が曖昧になった処遇は、採用競争力・定着・社内公平感の面でリスクになりえます。ローカル幹部層の報酬設計の考え方やポイントを整理します。