2025-07-30

給与に見合わない社員への向き合い方ーーベトナム労務のリアルな対応策

最近、自社社員に対してこんなモヤモヤを感じたことはありませんか?

「真面目には働いているけれど、正直、成果が伴っていない……」
「このパフォーマンスで月給4千万ドンか……。何とかならないものか」

でも、ベトナムでは、成果が出ていないからといって、簡単に減給や解雇はできません。

むしろ、不用意な対応をしてしまうと、企業側にとって非常に大きなリスクとなります。ちょっとした手続きミスでも、労働法違反と見なされ、訴訟や行政指導、会社の信用低下につながる恐れがあります。

今回はそんなお悩みに対し、合法的かつ実効的に向き合う方法を4つのステップに整理してご紹介します。

最後までお読みいただくことで、ベトナムの労働法を踏まえた制度運用のコツをつかめ、今日からでも実践できる具体策を知ることができます。ぜひご覧ください。

 


Step 1:雇用契約期間の「3つの見直しタイミング」を活かす


ベトナムでは一度無期雇用契約になると、企業側から一方的に契約を終了するのは極めて困難です。だからこそ、無期契約になる前に評価と判断のタイミングを意識的に活用することがカギとなります。

【3つの見直しタイミング】

  1. 試用期間(最大60日)終了前

  2. 1回目の有期契約(最長36ヶ月)終了前

  3. 2回目の有期契約(最長36ヶ月)終了前

この節目ごとに、パフォーマンスを評価し、必要に応じて雇用条件の見直しや、契約更新の判断を行うことができます。

例:期待した成果に届かなかった場合、契約更新のタイミングで給与水準を見直した条件を本人に提案し、双方合意の上で契約更新するまたは、契約満了をもって終了とする。

 


Step 2:本人の強みを活かす「配置転換」の検討


すでに無期雇用契約となっている場合、最初に検討すべきは、本人の得意分野や適性を踏まえた配置転換の提案です。

重要なのは、社員の強みやモチベーションが発揮されるポジションを一緒に見つけていく姿勢です。

例:マネジメントよりも専門性に強みがある社員を、技術指導や育成に特化したポジションへ配置転換

例:対人調整や組織牽引力が求められる管理職から、新規事業開発や社長直轄の特命業務など、機動力と個人裁量を活かす職務への配置転換

このとき、必要に応じて代替ポジションの選択肢をもてるような多様なキャリアパスを用意しておくことができると、本人にも納得感を持って受け止めてもらいやすくなるだけでなく、チームの雰囲気や職場環境の健全性も維持しやすくなります


Step 3:昇給・賞与を通じて「低評価である」ことを伝える


ベトナムではここ数年、年間5〜6%の昇給が標準的、また90%以上の企業が年間1ヶ月分の賞与を13か月目の給与として支給しています。この中で、昇給や賞与を見送ること自体が「あなたの働きぶりに満足していない」という明確なサインになります

:全体が昇給している中、対象社員のみ昇給を据え置く
:全体が賞与を受け取る中、対象社員のみ賞与なし

ただし、「賞与は必ず1ヶ月分を支給する」といった制度設計にしてしまうと、この対応は難しくなります。あらかじめ、有事の労務対応を想定して、「業績や評価に応じて決定する」など、柔軟性をもたせた設計が重要です。

 


Step 4:業績改善プログラムを通じて、キャリアを見極める
対話の場を設ける


配置転換や昇給や賞与の見送りをしても本人の業績改善が見られない場合には、業績改善プログラム(PIP:Performance Improvement Plan)の導入を検討します。

これは、社員本人にとっては自分の課題を見つめ直し、業績改善に向けた取り組みに挑戦する機会であり、企業側にとっては、今後の当人のキャリアを客観的に話し合うための土台をつくるステップでもあります。

例:営業成績が2年連続で大幅未達の社員に対し、半年間のPIPを実施。

→ その結果、目標達成できれば、通常業務に復帰

→ 改善が見られなければ、自社内でのキャリア継続の現実性を再検討し、今後の方向性について本人と話し合う

PIPの対象となる基準(例:2年連続C評定以下など)をあらかじめ明確に制度化しておくことで、本人にも説明しやすくなります。最終的にPIPの結果としても改善が見込めない場合には、「自社内に無理に居場所をつくる」のではなく、「本人の適性を活かせる環境(=社外)」を視野に入れる選択肢も、双方にとって前向きな結論となることがあります。その意味でも、PIPは退職勧奨の際に必要な事実と経緯を共有する対話の土台として、重要な役割を果たします。

 


まとめ


「成果が見合わない社員への対応」は、誰にとっても気が重いものです。とはいえ、ベトナムの労働法制下においても、社員の尊厳を守りながら、組織にも無理なく対応できる選択肢は十分にあります。

現地法人の現場で日々の労務管理に対峙されている皆さまの、リアルなお悩み場面で役に立つ情報となれば幸いです。

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横浜国立大学卒業後、経営コンサルティング企業で中小企業の新規事業支援を担当。2006年よりJICAウガンダで職業訓練校を調査し、2007年にベトナムの三井住友銀行ホーチミン支店で法人営業を担当。2010年からICONICベトナム法人にて組織人事コンサルティング事業の立ち上げに従事し、支援した人事制度構築プロジェクトは150件超。2023年、ICONICベトナム法人のGeneral Directorに就任。賃金管理士。ISO30414リードコンサルタント/アセッサー。

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