本日は、特別連載(全10回)「ベトナム賃金管理入門」の第6回をお届けします。
ベトナム給与調査期間中(5月8日~7月31日)の毎週木曜日に、ベトナムでの企業経営における賃金管理の必須知識を掘り下げてお届けしております。
第5回の記事「賃金レンジの上限に達した社員に昇給は必要か?」をまだお読みでない方、また読み返したい方はこちらからどうぞ。
「うちの給与水準、相場と比べて妥当だろうか?」「昇給額としてこの金額は適正なのか?」
そんなふとした疑問を感じたとき、頼りになるのが各種の給与レポート。
ベトナムでは、複数の団体や企業から給与レポートが提供されていますが、それぞれのレポートには背景や特徴があるため、それらを正しく理解したうえで上手に使い分けることが大切です。
今回は、ベトナムの代表的な給与レポートの特徴を整理し、目的に応じて使い分ける方法をご紹介します。
ベトナムで入手できる代表的な給与レポートの特徴と活用法
1. 転職市場を情報源とした給与レポート
概要:
転職希望者が申告する現給与額や希望給与額、または求人広告に掲載された給与レンジなど、転職市場の情報をもとに集計されたレポート。
入手元:
人材サービス各社が毎年発行する「サラリーガイド」など
魅力:
- 業界・職種・職位ごとに広く網羅され、細かく参照できる
- 必要情報の入力だけで無料ダウンロードできる手軽さ(=調査協力不要)
留意点:
- 転職市場ゆえの相場の上振れ傾向があり、定着社員の水準は反映されにくい
(※ベトナムの標準的な離職率は15〜20%程度。残りの80~85%の定着層のデータは反映されにくい。) - 最小値(Min)と最大値(Max)の幅が広くなりがちで、中央値など「標準的な給与水準」の把握がしづらい
活用シーン:
採用時の求人金額の検討や候補者との給与交渉に適しています。希望給与額や求人広告での掲載レンジをもとにしているため、相場感をざっくりつかみたいときの参考資料として有効です。特に、新設ポジションや初めて採用する職種の給与水準の目安を把握したい時に役立ちます。
2. アンケート選択形式の給与調査レポート
概要:
各企業が自身の職種・職層別の平均給与を計算し、事前に設定された賃金レンジから選択して回答。それらを集計するアンケート形式の調査レポートです。
入手元:
工業団地管理委員会、特定の業界団体、商工会などが主催する給与調査など
魅力:
- 地域や業界に特化した集計により、地域密着型・業界密着型の相場観を把握できる
- アンケート形式で気軽に参加でき、回答さえすれば無料で結果を入手できるケースが多い
留意点:
- 業界や立地をまたぐ競合状況(例:市・省や工業団地をまたぐ転職、業界横断的な職種の転職)には対応しづらい
- 事前に設定されたレンジからの選択式回答のため、給与情報としての解像度には限界がある
活用シーン:
特定の地域や業界内で自社水準が大きく外れていないかを確認したい場面に適しています。アンケートに回答さえすれば、無料で入手しやすく、ワーカー層など地域・業界特化の職種の相場確認にも有用です。手軽に社内説明用の比較材料を得たいときにも活用しやすい情報源です。
3. 企業の実支給ベースの給与調査レポート
概要:
企業が実際に支給した給与明細(=ペイロール)をもとに集計した調査レポートです。希望額や求人ごとの想定レンジではなく、「実際の支給実績」がベースとなります。
入手元:
ICONICが実施する給与調査など
魅力:
- 定着社員を含み、より労働市場の全体感を反映した水準が把握できる
- P25〜P75(=標準的な相場帯)やP50(=中央値=最も標準的な給与額)など、統計値が立体的に提示される
- 業界や立地をまたいだ広範なサンプルをもとにしているため、複数地域・業界と競合する職種にも対応しやすい
留意点:
- 実支給データを提供するため、アンケート形式よりも入力工数が多い
- 詳細版レポートは有料(ただし、調査協力企業は要約版を無料で入手できることが多い)
活用シーン:
昇給案の作成時や賃金レンジのアップデート、報酬制度見直しの判断材料として有効です。実際に制度を動かす場面に限らず、外部相場の変動を毎年定点観測するツールとしても役立ちます。定着社員を含む実支給データのため、“現実的な基準値”として信頼性があり、社内に説得力をもって根拠を示すことができます。
最後に
給与相場に唯一の正解はありません。大切なのは、「何のために」データを使うのかを明確にしたうえで、自社の目的に合った情報源を選ぶこと。
また、複数の情報源を併用しながら、視点の偏りを補っていくことも、実務上は非常に有効です。情報の特性を理解し、柔軟に使い分けていきましょう。
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📍次回予告(第7回)
報酬設計の考え方:自社にとって“ちょうどいい給与水準”とは?
次回は、こうして把握した給与相場をふまえて、「では自社ではどんな報酬の方針を定めるべきか?」を考えるフェーズへ。報酬戦略や方針設計の基本的な視点について解説します。